対面販売のみ→「車いすで厳しい」
平和堂・根本幸夫さん東京都立川市の女性(48)は18年前から、息子(21)のために大田区の漢方薬局・平和堂から漢方薬を取り寄せている。3歳の時に病院から処方されたぜんそく薬と風邪薬を併用し急性脳症となり障害が残った。数年後に薬害と判明。現在でも抗生剤などは体質に合わず、風邪や便秘などのたびに平和堂の薬剤師に電話相談し漢方の処方を受けている。
「うちは風邪薬1つでも漢方。体調に応じて薬も替えてもらってきた。薬局も自分に合う合わないがあるので、どこでもいいというものではない」。新制度のもとでは新規に処方された薬は通販で買うことができなくなり、2年間の猶予措置も意味がない。
薬剤師との対面販売での購入は可能だが、自宅から平和堂までは電車を乗り継ぎ1時間以上かかる。「息子の体調が悪いと自宅に置いていくわけにもいかない。車いすの息子を連れて行くには、決死の覚簡が必要。頭が変になりそうです」
平和堂では初回利用時に来店してもらいカルテを作成。全国約1万人の客のうち4割が郵送利用だという。店主の根本幸夫さんは「薬剤師が一人一人の体調や食事などをじっくり聞いて合うものを処方する。北海道や九州の方までおり、取りに来いとは言えない。郵送規制は患者の治療権利を奪うものだ」と憤る。
「同じ薬、同じ店」2年猶予措置も「体の症状で変更するものなのに」77歳女性ため息
東京都江東区で松江堂薬局を経営する松江一彦さんも「ある漢方を飲んだら、体の症状が改善されるのでそれに合う薬に変更していく。そうなると2年の猶予は受けられない。2年同じ薬を飲む人はいない」と語る。さらに「脳こうそくの後遺
症で歩けないお客さんもいる。対面販売のみとは患者にとって死活問題」。
清瀬市で一人暮らしをする女性(77)は30年にわたり漢方薬局から漢方薬を取り寄せている。「2年たったら、今と同じ健康状態とは思えない。電車を乗り継いで受け取りに行けるのか。これまでの体調管理が一切崩れてしまう。探し当てた自分に合う薬局なのに」とため息。不安になり、今年2月に厚生労働省に問い合わせをしたところ、担当者に「利用している漢方薬局から近所の薬局に薬を送ってもらい、取りに行って。あとはホームページを見て」と言われた。通販規制は、薬剤師らが責任を持って薬の副作用などを客に説明するために取られる措置。
「近所の調剤薬局の薬剤師さんが、漢方の知識を持ち、安心して渡せるかどうか判断できるのでしょうか?」
厚労省ネット対策ばかりに主眼
厚生労働省 医薬食品局 総務課 厚生労働技官 関野秀人さん 漢方製剤メーカーの「栃本天海堂」によると、取引のある全国の漢方薬局約2000店舗のすべてが郵送販売を行っている。その他の製剤メーカーの調査でも9割以上の社が郵送販売を実施。売り上げの7劃が郵送販売という店もある。
厚労省は、これら漢方薬局とその利用者の実態・についての独白調査を一切行わないまま、改正法を施行する。今年2月に立ち上げられた舛添厚労相直属の「医薬品新販売腰制度の円滑施行に関する検討会」で「さざまな意見を議論しましたから」 (厚労省担当者)としている。
しかし、検討会設置は改正法の施行規則などを改正する厚労省令の公布後。「ネット販売にばかり主眼が置かれ、漢方利用者らのことは何も分かっていなかったのでは」(根本さん)。厚労相を経験したある大物議員は「はっきり言ってあなたたち(漢方薬局)は、ネット規制のとばっちりを受けた」と話したという。
根本さんらは今年2月「漢方などの医薬品の郵送販売を守る会」を設立。
5月29日までに1093店舗が賛同、改正法に反対する4万7055人の著名が集まった。守る会では「登録販売者が薬の説明をするだけの対面販売が可能で、薬剤師が電話できちんと話を聞く漢方薬局がなぜ駄目なのか。今後も署名活動などを続けて訴えていく」としている。
2社が国を訴える
ケンコーコム:後藤玄利さん ○…健康関連商品のインターネット販売業者「ケンコーコム」など2社は5月25日、今回の法改正は営業の自由を不当に侵害し違憲として、国を相手に、改正法施行に伴う厚労省令の無効確認や、取り消しなどを求める行政訴訟を東京地裁に起こした。
また、インターネットショッピングサイト「楽天市場」では、ネット販売規制に反対する署名を受け付けており、5月27日現在で150万件を超えている。
伝統薬”存続危機”:八ツ目製薬も困惑
目の乾燥に効く「八ツ目鰻キモの油」や膏(こう)薬「下呂膏」など、日本各地に古くからある製薬会社が独白の処方で国から承認を得た「伝統薬」も今回の郵送規制の対象。明治末期に東京・浅草で創業した「八ツ目製薬」の加次井商太郎社長は「問題なくやってきたことを一方的に変えるのはおかしい」と主張。全国の伝統薬メーカー44社で「全国伝統薬連絡協議会」を設立した。
創業約300年の老舗もあり、家族経営の小規模なところも多い。熊本で血のめぐりに効く「人参順血散」などを製造する「渡部晴光堂」はわずか8人。全国約3000人の客のうち7~8割が郵送だ。渡部展行社長は「枕元に携帯電話を置いて24時間患者の症状に対応できるようにして信頼関係を築いてきた。今後新規のお客さんが取れなくなる恐れがある」と経営不安を口にする。
京都で江戸時代から続く業者は家族3人で伝統薬を守ってきた。「3割ぐらいが郵送。経営はほんとうにしんどい。でも〝やめんといてね”と言ってくれるかたもいるから」
今回の規制は、今後伝統薬の存続に大きな影響を及ぼすという。岐阜県の下呂温泉に代々伝わる「下呂膏」を製造する「奥田又右衛門膏本舗」の日向靖成社長は「郵送割合は2割ほどですが経営には大きな痛手。メーカーが立ちいかなくなると、それは伝統薬が1つ消えることを意味する」と指摘する。製造を一度止めると、後で同じ伝統薬を製造しようとしても新薬と同じ扱いになるため、再開には臨床実験などから始めなければならない。「コストや期間の面で伝統薬業者にそれは不可能。古くからの薬を1つでもなくさないようにしなければいけない」
「第2&3類」販売可:コンビニが本格参入
○…登録販売者を置をけば、コンビニやスーパーでも第2類、第3類の大衆薬が販売可能となったため、流通各社が本格参入。近くで深夜に買えるだけでなく、低価格化も予想される。
「セブンーイレブン・ジャパン」は、調剤薬局アインファーマシーズと提携、都心の1店舗で6月から登録販売者による販売を開始。
また、イオンは独自ブランドの低価格医薬品を、傘下のドラッグストアを中心に販売する。一方、迎え撃つドラッグストア各社も、薬剤師より資格取得が容易な登録販売者を活用し、24時間営業の店を増やす方針。
メ モ
厚労省▽改正薬事法:大衆薬を副作用の危険度や成分別に3段階に分類し、第1類、第2類に属するものは店頭での対面販売のみに限定する。これまで薬事法に規定がなくインターネットでの販売が広がっていたが、薬害などを防ぐために店頭での薬剤師らの説明が原則となる。1、2類を合わせ、対象となる医薬品は700種類以上。最もリスクの高い第1類は薬剤師が購入者に説明する義務がある。第2類については、高卒以上で薬剤師の下で1年以上の勤務経験があり、都道府県の試験を受けた「登録販売者」による店頭販売も可能。違反し、漢方などを郵送すると立ち入り検査、業務改善命令、営業停止処分などを受ける。
| 区分 | 主な商品 | 通信販売 | 販売時の対応者 | 情報提供 |
|---|---|---|---|---|
| 第1類 | 胃腸薬「ガスター10」 消炎鎮痛剤「ボルタレンAC」 禁煙補助剤「ニコチネルパッチ」 発毛剤「リアップ」など |
不可 | 薬剤師 | 義務 |
| 第2類 | 漢方・生薬 「パブロンS」などの風邪薬 解熱鎮痛剤「バファリン」 胃腸薬「正露丸」など |
不可 | 登録販売者 薬剤師 |
努力義務 |
| 第3類 | 「チョコラBB」などのビタミン剤 整腸薬「ビオフェルミンVC」 うがい薬「イソジン」 消毒薬「マキロン」など |
可 | 登録販売者 薬剤師 |
不要 |
(2009.06.01 by スポーツニッポン)


